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企業による濫用を防止するための拘束力ある条約を目指し苦戦は続く

Adam Parsons
2016年11月10日

企業の活動を規制するための拘束力ある条約は、新たな国際政治、経済及び法秩序への急進的意味合いを伴い、議論を呼ぶ自由貿易及び投資協定に対して極めて重要なコントラストをなし得ます。


10月最後の週、市民社会は多国籍企業 (TNCs)とその他の事業企画に対して、人権に関する法的拘束力ある文書を勝ち取ることに再び一歩近づきました。スイス、ジュネーブの国連人権理事会において国家の代表者たちと並んで多数の大きな社会運動及びネットワークの代表者たちが、2年前に立ち上げられた無期限の政府間作業部会ための手続きを促進するために会合しました。拘束力ある条約の全形態への西側諸国からのかなりの反対にもかかわらず(特にアメリカ、イギリス、その他の欧州諸国)、活動家グループは現在、Global Campaign to Reclaim Peoples’ Sovereignty, Dismantle Corporate Power and Stop Impunity(人々の主権を取り戻し、企業権力を解体し、不処罰を撤廃するためのキャンペーン)の一部として努力を強化しています。

このプロセスが現在国連アジェンダの正式な一部分であるという事実はそれ自体が特筆に値します。1970年代以来、人権を侵害する企業を規制するための拘束力ある国際システムを発展させることにおいて長い間失敗を繰り返す試みがなされてきました。当時の人権委員会の従属組織のもと1998年に新たな手続きが開始されるまで、国連経済社会理事会 (ECOSOC)を通してのTNCの行動規範をつくるための実りのない取り組みは、1990年初頭までに完全に阻止されました。2003年、 小委員会はTNCに説明責任を課すことのできる一連の「非自発的」規範を是認しましたが、これらはビジネス・セクターから厳しく反対され、最終的に人権委員会から「法的根拠がない」と宣言されました。

国連事務総長であったコフィー・アナン氏は、代替策として、企業規制への意欲を欠き「パートナーシップ的」アプローチ追求で知られるようになったビジネスと人権のための特別代表者、ジョン・ラギー氏を選任しました。2011年、遂に彼の国連指導原則がついに発表されすべての政府に認められましたが、それは自主性に基づき拘束力がなく、適切な配慮を持って行動するよう企業に要求するだけにとどまりました。市民社会組織は提案されたフォローアップ・メカニズムの落ち度を完全に非難することによって、人権に対する企業の責任及び説明責任を強化する努力を弱体化する危険をおかしたほどでした。

従ってこのような背景のもと2013年、TNCの活動を規制し、人権侵害の犠牲者への適切な保護、正義及び改善措置を提供するために法的拘束力ある枠組みへの努力再生を、大部分がグローバル・サウスからの国々の一団が要求したことは非常に大きな前進でした。歴史的解決は大多数の国々によって(ロシアや中国など大部分がまたもグローバル・サウスから)2014年6月に国連人権理事会において採用され、法的拘束力ある文書を起草する任務を持った政府間作業部会を確立しました。国連の政府間組織が企業規制に専念するのはおよそ過去25年間でこれが初めてであり、TNCに対しての真の法的制度が最終的に合意され実施されるためにはかなりのハードルを伴う集中的なプロセスとなります。

「人生の破損」

人権侵害においてTNCに対する直接的起訴を不可能にする国際法の構造に存在する溝を考慮すると、彼らの活動の説明責任をTNCに課すための議論はこれ以上厳しくなり得ません。しかしながらTNCが引き起こしている危害は明確に記録されており、グローバル・キャンペーンが「人生の破損」として言及しています;例をあげると、社会的闘争と抵抗を抑制すること、採取産業において公害を生むこと、先住民を彼らの土地から強制退去させること、劣悪な労働条件によって労働者を食い物にすることなどです。4、5年間に渡って常設人民法廷は有害な企業活動の社会及び環境への影響について証人となり、事実上不処罰のままどのようにTNCが活動できるかを証明するいくつかのケースを明らかにする機会を、危害を被ったコミュニティの代表者に与えました。誠に、多くの人権擁護者による一貫性のある取り組みが企業の不処罰問題を国連人権理事会の議題へともたらし、規制及び改善措置双方の観点から被害を受けた人々の権利が拘束力ある条約の中心となるための要求を起こしました。

TNCの活動を何十年もまもり、法規範や制度の民営化を通じて人々の権利より企業の権利を優先してきたすべての「不処罰の構造」についてキャンペーナーは話しています。最大のTNCのいくつかは、彼らの途方もなく大きな政権が規範、条約及び協定の多数によって法的レベルで強化され守られている傍ら、多くの国より大きな経済力を持ちます。新たな世界的企業法あるいは商慣習法としてしばしば述べられるそれは、二国間貿易協定に正式に記される投資家対国家の紛争解決(ISDS)条項及び仲裁裁判所、または(現在ヨーロッパでいわゆる競争力強化に向けた協定のもと再現されている)国際通貨基金による強制的な構造調整プログラム、あるいは世界貿易機関の紛争解決システムなどのメカニズムから成っています。TNCの権利が貿易・投資規定に基づくこの複雑な法的枠組みによって保護される一方で、彼らの活動の社会、文化、環境あるいは労働への影響を制御するための拮抗勢力や強制力を持つメカニズムがありません。それは投資家の利益をまもる拘束力ある規範と、TNCによる人権の尊重義務を単なる自主的措置にまで縮小させるゆるい法律との間の規範的不均整という結果を生みます。

それ故、TNCの活動を制御するための拘束力ある条約は、何の民主的正当性もなく絶え間ない秘密交渉が議論を呼ぶ自由貿易及び投資協定に対して極めて重要なコントラストをなすことができます。民主的で公平な国際秩序の促進に関する独立専門家のアルフレッド・デ・ザイアス氏は、TTIP、TPP、CETA及びTISAなどの断続する協定は主要な利害関係者や議会なしで全て整えられるため、これらは国際人権法を直接侵害していると強く主張しました。彼らはまた、国際投資家が民主主義国の国家主権を覆すことを可能にし、そしてどの国の法律や憲法に対しても遵守を要求しない彼ら自身の「仲裁」システムを強制することを求めます。社会的、経済的プログレスを幅広く犠牲にして投資家、投機家及び多国間企業の即時の利益のためのみに仕えるよう意図された現在の貿易と投資制度の法的基盤には不平等と不均衡が組み込まれています。

規範のピラミッドをひっくり返す

このような状況において、法的拘束力ある文書を通して人権を貿易協定とWTOの活動に組み込むことの意味合いは急進的で変革的要素を持ちます。市民社会の提案の基本的意図は、社会の大多数派の権利を上位に置くための国際的な規範のピラミッドをひっくり返すことであり、ひいては国連憲章の原則に従って、署名されるすべての貿易及び投資協定に拘束力ある最高法規の人権条項を導入するよう国家に義務づけるための最終条約の要求が繰り返されました。マーストリヒト原則で規定されるように、経済的、社会的及び文化的権利の領域において国境を越えた義務の遵守への繰り返される要求はまた、国際貿易及び金融を規制するための法的基盤として人権がその正当な役割を担えるよう保証することの中心にもなります。

これらの階層的に優れた規範の傑出をかき立てた結果、それはすべての既存の貿易及び投資協定の再交渉を要する可能性があり、秘密主義的な企業仲裁システムはもとより投資家対国家の紛争解決(ISDS)制度を覆すことは確実に可能です。誠に、国家とTNCがもし国際人権法の確立された基盤である協定、提案及び宣言を敬い従うことを真にやむなくされるなら、ひいてはグローバル経済システムに必要な改革の完全リストができるかもしれません:金融取引や投機の厳格な規制、タックス・ヘイブンの閉鎖、違法な公債やソブリン債の取り消し、食料と健康への権利保証のために公共財及びサービスの民営化を廃止するなど、その他多数あります。

このより大きなヴィジョンは、TNCが犯す人権侵害を止めるためのコントロール・メカニズムの必要性について明確に説明する以上のことをさらに達成するための国際人条約を、詳細に述べるために市民社会の共同提案によって支持されています。正義へのアクセスのための拡大する要求はまた、「下方から」国際法を構築すること、そしてコミュニティと市民が管理すべきセクターへのTNCの拡大に反対することによって「コモンズに対する人々の主権」を確立するという理想にも繋がっています。進行中の取り組みの一部として現在のグローバル協議のための基本文書は、多様な分野において拡大するTNCのパワーに抵抗する多くの社会運動、学者、活動家及び被害を受けたコミュニティの経験と提案から出現し、支配的な社会経済パラダイムの代替についての非常に長いセクションを含んでいます。

急進的な代替となる提案

富の公平な分配と自然への尊重に基づいた新たな国際政治、経済及び法秩序を政府が組織立てると同時に、これらの提案の中心には、根本的人権の実現の為の効果的なメカニズムを促進する必要性があります。従って、分かち合いの原理は、新経済を思い描くことに関する国際人条約のセクションで強調されるように、協力と結束を促進する全経過措置の基盤として認識されます:

「世界人口の半分以上の基本ニーズに取り組むために、そして地球システムの非常に重要なサイクルの混乱を根絶するために、グローバル及び国家経済は自然の限界内で不均衡を削減するために富を再分配せねばなりません。過剰消費や無駄を削減する必要のある人たちがいる一方で、福利を改善する必要のあるセクターや国もまだあります。私たちが入手できる可能な限りのものを分かち合う時にのみ、万人の福利が持続可能となるでしょう。真のチャレンジは貧困を根絶することだけでなく、さらに重要なことに、富と権力の集中を根絶し、権利に基づいた経済及び社会正義を成就することです」。

世界的な公平性及び正義のこのより幅広いヴィジョンを政治的に非現実的だとして多くの人々がはねつけるであろうことは、世界中で拡大する企業乱用スキャンダルと多くの発展途上国における基本労働及び人権水準に対する存続する無関心を考慮すると、疑いありません。国連人権理事会を通しての拘束力ある条約のためのプロセスへの企業の圧力に抵抗することをキャンペーン・グループはいまだ試みており、2015年の最初のセッションにおける欧州連合のあからさまな対立を考慮し国家が少なくとも誠意を持って参加することを要求しています。革新的市民社会の要求に同調した具体的な試案を来年達成する展望は、エクアドール、キューバやボリビアのような国々の確固とした支持があるにかかわらず現在楽観的とは言えません。STWRからの最も重要な著書、世界人権宣言第25条を布告する、に思い描かれているように、万人の基本的な社会経済権利の確保の為に一般市民からの大規模な断続した、そして終わりのない支持なくしては、権力のバランスは国境を超えた資本と媚びへつらう政治的代表者の手中に確固として残ります。

それでもなお、条約プロセスは大衆の抵抗努力を連結する重要な機会として残り、対抗勢力を築き、そして企業の不処罰の巨大な壁を徐々に壊します。それは人権運動家だけでなく、多国間企業の利益より人々と自然を優先するさらに民主的、持続的及び平等な世界のために活動するすべての人が関与すべきプロセスなのです。 
 

さらなる参考文献:

The Treaty Alliance: www.treatymovement.com

The Campaign to Dismantle Corporate Power: www.stopcorporateimpunity.org

Storify on the Second Session of the Open Ended Inter-Governmental Working Group (OEIGWG) at the Human Rights Council: #StopCorporateAbuse with a #BindingTreaty

Transnational Institute: Building a UN treaty on Human Rights and TNCs - A way forward to stop corporate impunity

Jens Martens and Karolin Seitz: The struggle for a UN Treaty: Towards Global Regulation on Human Rights and Business, Rosa Luxemburg Stiftung

UN Human Rights Council: Draft report of the second session of the open-ended intergovernmental working group on transnational corporations and other business enterprises with respect to human rights

アダム・パーソンズはシェア・ザ・ワールズ・リゾースィズの編集長です。