• English
  • 日本語
  • France
  • Deutschland
  • Italy
  • España
  • Slovenia

グローバルな分かち合いの経済に融資する、パート1:分かち合いの経済

STWR
2012年10月1日

分かち合いのシステムは、不平等を広げ貧困や極貧状態のなかに家族を取り残す政策によってますます蝕まれつつあります。結果として現在人類は、何百万人という人々がグローバルな非常事態に直面し、さらに多くの人々が毎年不必要な死に遭遇し、さらに多くが生命を脅かす貧困や回避可能な苦難に苦しんでいます。この非常事態の構造的な原因への取り組みは世界経済の大々的改革を要求するでしょうが、その一方で、人間の生命を保護するための制度および機構は世界全体で既に整っているのです。

この報告書は、緊縮財政政策を撤廃し、貧困に関連した死を防止し、気候変動の人間への影響を緩和するために、毎年2兆2000億ドル以上を政府がどのように動員できるかを示します。しかし、国内および国家間での分かち合いのシステムを拡大、強化するよう国際社会に強いる、大規模な公衆の圧力の高まりだけが唯一それを実現するでしょう。


協同組合の事業や「土地シェア」計画からオープンソフトウェア開発やソーシャル・ネットワーキングに至るまで - 分かち合いは文明の幕開け以来、家族とコミュニティが実践してきたj自然な人間の振る舞いであり現代生活の多くの領域にいまだ影響と活気を与えています。それにもかかわらず、今日の分かち合いの最も重要な表れは政治経済分野において認識されていません。議論の余地なく社会福祉の現代システムは、これまでに確立された分かち合いの最も進んだ形態であり、発展国の大部分の人々がその正しい機能に不可欠です。[1]

福祉および公共サービスのシステムの提供は、基本的には世界中で様々な形で存在する複雑な「分かち合いの経済」です。[2] 分かち合いの原理は、基本的な人間のニーズおよび権利を全市民のために確保する集団的責任を社会の人々が担うことを保障することによって、それらのシステムが機能することを支えます。革新的租税および再分配プロセスを通して、全体としての社会の利益のために、国家の財源(個人の収入および資産、そして企業の利益)の一部を私たちは分かち合います。殆どの先進国の政府はより幅広い人口が医療、教育およびその他の重要な社会保障の形態にアクセスできることを保障するために税収の大部分を再分配します。

先進国の社会保護システムは完全からは程遠く常に効率良く施されるわけではありませんが、何千年もの間人々に親しまれてきた営みを下地とする、人間の分かち合うという性質の自然な進化を象徴します。それらのシステムはまた、社会正義、団結、そして不平等を削減し国家内の社会的連帯を強化するひとつの表現でもあります。[3] その上、普遍的な社会保護システムは、より公平で公正そしてより健全な社会を構築することにおいて、効果的な「分かち合いの経済」が担える役割を長い間認識してきた何千万という人々によって広く支持されています。 

国家間の分かち合いを拡大する

しかしながら、世界には分かち合いの経済を確立、強化するプロセスがいまだ初段階にしかない地域があります。多くの低所得国は、租税および公共サービスの提供を通して、富および所得を再分配する効果的なシステムを構築するために必要なリソースを持ちません。その上多くの場合、発展途上国は、彼らの経済発展をさらに妨げる社会、環境および経済問題に苦しんでいます。

これらの現実は、国内および国家間での分かち合いを拡大する緊急の必要性を指し示しています。グローバル化された現代世界では、各国の繁栄は最終的に他国との関係にかかっています。それゆえ富裕国は、貧困国の政府が国民の基本ニーズを充足し経済開発を促進できるように、再分配的租税および社会保護の国内システムを強化するよう、彼らをさらに援助する責任があります。

国内の分かち合いの営みとは違って、国際レベルではそれに相当した、発展途上国が緊急に必要とするレベルの援助を提供できる、租税や公共支出システムがありません。[4] 主な例外は、政府開発援助(ODA)として知られ毎年ドナー国によって提供される国際援助です。[5] このODA報告書でさらに説明されるように、今日の援助への寄付は極めて不十分で効果がなく、しばしば被援助国に問題をもたらします。何十年間もの国際援助提供の後、およそ250億人がいまだ1日2ドル以下で生活しています - 1980年代初頭以来その額は殆ど変わっていません。[6] 例え極貧率を半減させるミレニアム発展目標が達成されたとしても、2015年、8億8300万という圧倒的数の人々が、生存のための十分な手段なしでまだ生活しているでしょう。[7]

極貧および貧窮と並んで存在する途方も無い富のレベルを考慮すると、国際コミュニティを包括する分かち合いの国家システムを支える原理をそろそろ拡張していても良い頃です。言い換えると、世界中ですべての人々の基本的ニーズおよび権利を確保することを促進できる効果的な「グローバルな分かち合いの経済」を確立する必要があります。[8] より長期的には、これは新たなグローバル機関の確立および直接的国際租税またはその他の革新的メカニズムの形態の実現を必要とするかもしません。[9] しかしながら初段階として、既存のメカニズムおよび機関を通し世界の豊かな財源のまさにほんの僅かを再分配することによって、毎日何千もの家族を苦しめ生命を脅かす貧困を政府らは直ちに防止すべきです。


ボックス3: 分かち合いの経済の進化

人は生れながら個人主義的で自己中心的だという一般的な誤認とは対照的に、与えることおよび分かち合いが世界中の社会におけるコミュニティ間の関係の基礎を形成してきたことを人類学者は示してきました。最近の化学的研究の多くが、人間として私たちは、生存の可能性および集団的福利を最大限にするために協力し分かち合う傾向が自然にあるのだということを明示する、この証拠の上に築かれてきました。分かち合いと相互利益の行為なくして、社会と経済を構築するための社会的基礎はあり得ません。[10] 

歴史的・科学的証拠を考慮すると、分かち合いの原理および平等がまた、世界の多くの宗教だけでなく人道主義など多くの非宗教的運動の重要な構成要素となってきたことは驚くべきことではありません。大体のところ同じように、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教、仏教、ヒンドゥー教、そしてその他多くの信仰はすべて、富や他の資源を公平に分かち合うことの重要性だけでなく、弱者および貧困者を守る必要性を詳しく述べています。

現代世界での分かち合い

近年、インターネットの開発を通して、分かち合いの原理は経済的・社会的分野に再び出現しました。知識を共有するウイキペディアのようなサイトから国境を超えた人間関係を促進するソーシャル・メディア・プラットフォームに至るまで、世界規模で事実上の分かち合うコミュニティを創造することによって人々は時間、技術および経験を分かち合っています。近年インターネットが集中的な商業活動の中心となっているにもかかわらず、世界中のプログラマーたちは、広く使用されすべての人に無料で使用可能な革新的「オープンソース」プログラムを自発的に制作しています。

このオンラインネットワーク拡大に並行して、車や食糧からオフィス空間や専門技術に至るまで、様々な物資およびサービスを人々が仲間と分かち合うことを可能にする新経済モデルとして、共同消費が出現しています。分かち合いの経済のこの最新の現れの支持者が主張するように、分かち合いはお金を節約し、コミュニティを構築し、貧困者を保護する一方で、個人的消費レベルを削減するプロセスにおいて炭素排出を削減します。[11] 分かち合いの経済の拡大するインフラストラクチャーおよびコミュニティもまた、ピアツーピアのサービス、クラウドファンディング、クラウドソーシングおよび共同制作などその他多くの革新および活動を含みます。

生活組合の事業もまた、事業活動の収益を従業員と分かち合うことによって分かち合いの経済を長期の間開拓し、個人ではできないことをするために人々を結びつけてきました。分かち合いが経済的効率性を改善するかたわら多くの社会的および環境的利点をも持つことを、増大する証拠が明示しています。殆どの人が彼らの時間とリソースをローカル・コミュニティと分かち合うことに対して熱心であること、そして分かち合いが充実感と自信を私たちに与えてくれることを研究は暗示しています。[12]

分かち合いの原理はまた、「コモンズ」への新しいフォーカスを支持します - 天然資源、文化的伝統、知識などの社会および自然双方の一定の資源が「共同で」保たれ、人とコミュニティによって共有されるべきだというコンセプトです。[13] 今は亡き経済学者エリノア・オストロムは、国家や民間セクターの介入のないローカル・コミュニティによる土地およびその他の共同利用資源の管理への画期的取り組みによりノーベル賞を授与されました。[14]

分かち合いとしての社会福祉

上記に略述されたような例は、分かち合いの経済の多くの異なった側面への一般市民、起業家、経済学者および政策立案者の間で拡大する関心を明らかにします。しかしながら、現代世界の分かち合いの経済の最も重要な例のひとつ - 福祉制度の提供 - は、多くの場合認識されないままです。社会保護の様々な形態は、少なくとも古代ギリシャまで遡ることができるにもかかわらず、公的資金による福祉は、1880年代にビスマルク首相によって初めて実施されました。最も広く知られる現代の福祉政策のいくつかは、大恐慌の間アメリカに導入されたそれらと同様に、第2次大戦後イギリスで実施された国民保険サービスおよびその他の社会保障を含みます。1970年代にはスウェーデン、ドイツおよびオーストリアを含んだ多数のヨーロッパ諸国がまた、国家福祉提供を著しく拡大しました。

今日、福祉サービスの普遍的アクセスを可能にする分かち合いの経済は、特に中所得および高所得国で一般的です。これらの分かち合いの国家システムは通常、社会的・社会的権利など一定の不可侵の人権を万人が持つべきという認識と並んで進化しました。これらの権利は、1948年に世界人権宣言第25条を通して国々によって同意され初めて正式に記されました。そしてそれ以来、その他の数多くの国際規約のなかでそれらは強化されてきました。[15]


グローバルな非常事態を優先する

分かち合いの経済を強化・拡大するよりむしろ、何十年もの間政府らは社会保護システムを弱体化し、貧困および不平等をさらに深刻化する政策を追求してきました。その結果、現在人類はグローバルな非常事態としか言いようのないものに直面しています。私たちが業務平常通りを続行する毎日、4万人が無駄に生命を失い、そしてさらに無数の人々が食糧、水、適切な住居、医療という基本的ニーズを剥奪されています。緊縮経済政策は、既存の不平等を拡大することによって世界中の何千万人もの人々に苦しみをもたらしています。同時に、生態学的混乱は、既にコミュニティを破壊し貧困を激化する自然災害を引き起こしています。気候変動だけで毎年30万人もの死亡者をだしており、さらに多くの何百万人もの生命を奪っています [パート2を参照]。

人類に直面する多くの差し迫った問題の根本的原因が複雑であるためこの報告書の範囲を超えていながらも、世界の相互関係する危機を解決することが、国際コミュニティによって今まで試みられたことのない規模での構造改革を必要とするだろうことはますます明らかです - この時代の重大課題として広く考えられる任務です。しかし、何千万人もの人々が生命を失い、回避可能な貧困に関連した原因に苦しむかたわら、これらの斬新な変革が起こるのをただ待っていることはできません。

簡略するとこのグローバルな非常事態は、人々と地球の利益となるよう世界の莫大な財源を再分配することができない、分かち合いの経済を弱体化する政策によって激化しています。しかしそうであるにしても、非常事態の最悪の影響を緩和するために必要なすべてが既に存在します。国際コミュニティは、救命と極貧根絶への思い切ったステップを踏むための資金および専門技術両方を持つのです - そしてこの報告書が明らかにするように、そうすることは経済的に可能なのです。


ボックス4: 小さな代償

  • 1日1.25ドルの貧困線から上に140億人を持ち上げる:年間1730億ドル。[16]
  • 中央緊急対応基金(CERF)の2011年度の不足額:4500万ドル。[17]
  • 緑の気候基金に融資する:年間1000億ドル。[18]
  • 国連平和維持活動を維持するのための、国連加盟国によって滞納された分担金:1360億ドル。[19]
  • 国連世界食糧計画2011年度の不足額:1410億ドル。[20]
  • 貧困国のすべての幼児への予防接種提供:30億ドル。[21]
  • 低所得国での普遍的初等教育の達成:年間240億ドル。[22]
  • 南アジアおよびアフリカでの気候変動適応のニーズへの対応:年間340億ドル。[23]
  • アフリカでのミレニアム開発目標(MDGs)の達成:720億ドル。[24]
  • 全低所得国のMDGの資金の不足分を埋めるための全費用:2010年度1430億ドル。[25]
  • 極貧で生活するすべての人々への基本的社会保護の提供:1兆2600億ドル(世界GDPの2%)。[26]

世界の財源を動員する

今日の富の偏った分配は、グローバル優先項目がどれだけ歪曲し、世界の財源が現在どれだけ馬鹿げたやり方で管理されているかを浮き彫りにしています。例えば、2008年の銀行を救済するための何兆ドルという額は、世界の極貧を50年間止めるのに十分でしょう。[27] 世界の絶対的貧困ライン(1日1.25ドル)から上に人々を持ち上げるためには、世界所得の0.2%を必要とするに過ぎないでしょう。[28] そして、世界食糧計画の資金の不足を埋めるには、1億4100万ドルを必要とするに過ぎないでしょう [box 4を参照]。[29] 一方で、グローバル金融危機であるにもかかわらず、多国間企業は記録的利益を報告しており、エグゼクティブの報酬およびボーナスは過去最高です。[30] 2011年、世界人口の最も豊かな0.002%である世界の裕福層の富の総計は42兆ドルでした。[31] 同年、政府は軍隊に1.73兆ドルを、そして裕福な農業者や大きなアグリビジネスを支援するために、さらには3740億ドルを費やしました[パート3を参照]。

この報告書は、緊縮経済政策を撤廃し、生命を脅かす貧困を防止し、気候変動の人への影響を緩和する目的において、世界中で分かち合いの経済を強化するために、十二分の資金を政府がどのように利用できるかを実用的点から明確に示します。パート3で浮き彫りにされたどの政策オプションも何十億ドルという金額を動員することができ、この報告書の全勧告を合わせたものは、生活必需品へのアクセスを万人が持つことを保証するために、国際コミュニティが毎年2.8兆ドル以上を動員することを可能にするでしょう。これらの数字は大まかな見積もりに過ぎませんが、それは、差し迫った人間のニーズのための莫大な額の追加的な公的資金を政府が集め再分配する可能性を明示します。[32] 

既に整っている構造

弱者を保護し、気候変動を緩和するための、これらの追加的財源を利用するために必要とされる制度的構造、気候および専門技術、知識は長期の間整っていました。例えば、発展途上国では災害支援を提供し生命を脅かす貧困を防止するために取り組む数多くの国際機関が既にあります。これらは、赤十字、そして世界食糧計画および世界保健機関を含んだ、国連の傘下で取り組む広範な人道機関はもとより、政府、民間機関や一般人に支援された国際開発部門のなかで取り組む多くの非政府組織を含みます。

これらの機関は合わせて、救急医療、食糧およびシェルターの緊急提供、そしてきれいな飲み水および衛生へのアクセスの確保など、様々な介入を通して極貧による不必要な死を防止するための経験および専門知識と技能を備えています。しかしながら、彼らの総合された専門知識および能力にもかかわらず、基本的人道援助への大規模な世界的要求を充足するために不可欠な財源を彼らは持ちません。

環境問題に関しては、発展途上国での気候変動への適応および緩和プログラムを促進するために確立された数々の資金とメカニズムを、政府らは既に持っています - それは、温室効果の人間への影響を著しく削減できる手段です。最も注目すべきは、2020年までにその活動のための資金を政府らがどのように調達できるかについてまだ確証がないにもかかわらず、国際コミュニティは2011年にグリーン気候基金を開始しました[パート2を参照]。低炭素経済へ移行するための多くの国内およびグローバルな戦略と並んで、これらの「気候資金」解決策は国際協定から大きく独立しています。

社会保護の点から、多くの国は既に、不可欠な公共サービスを国民に提供するための様々な福祉制度を持っており、現在それが欠如している国々で基本的社会保護を確立することは不可能ではないでしょう。国際労働機関の見積もりによると、世界GDPの最低2%を持って、世界の貧困者にとって利用可能な社会保護の基本的レベルを保証することが可能でしょう。[33]

分かち合いの経済の利益

この報告書に提示された政策は、これ以上国の債務を増やすことなく何千億ドルという額を政府が動員できる多くの方法を浮き彫りにします。発展途上国における生命を脅かす貧困を防止することによって、グローバルな分かち合いの経済を強化するためにこのお金を使うことは、毎年約1500万人もの生命を救い、さらにもっと多くの人々が自国の社会的、経済的、政治的、文化的生活に貢献することを可能にできるでしょう。[34] これは、世界中の経済が縮小し失業率が上昇しているこの時、経済的に道理にかなっています。貿易および経済的関係が全領域に行き渡っている相互依存する世界で、分かち合いの経済へのこの大規模な投資は、需要を刺激し、成長を促進し、雇用の機会をもたらし、そして政府の歳入を実質的に増加させるでしょう。

ヨーロッパおよび北アメリカ全体で緊縮経済政策を撤廃することはまた、これらの経済大国での失業を削減し、そして国民の健康、福利および可処分所得を増大させることによって、経済に相当な影響をおよぼすでしょう。同じように、国家および世界規模で「グリーン・ニューディール政策」の一部として再生可能エネルギーに大きく投資することは、低炭素経済への道を整え気候変動の最悪の影響を緩和します。[35] 

これらの方策を合わせたものは、経済活動を刺激し政府の歳入を増大させることを促進し、国々が財政の穴を埋め政府の支出を大幅に削減することを助力します。これらの「刺激策」は、特に、不況または例外的大赤字の時代において、今日の負債を抱えた多くの政府によって行われる緊縮財政プログラムよりもさらに効果的だと広く考えられています。全グローバル経済構造の深い変革が、断続する経済危機を解決するために必要であるにしても、その一方で、不可欠なサービスの削減を通して政府が分かち合いの経済を弱体化することに対して弁解の余地はありません。

プログレスへの障壁を乗り越える

この報告書で浮き彫りにされた世界問題の最悪の影響を緩和するために必要なお金、機関および技術的知識をもし私たちが持っているのなら - そしてそうすることが健全な経済の点から理にかなっているのですが - なぜその財源をもっと効果的に使っていないのでしょうか。生命を救い、弱者を保護し、そして低炭素経済に移行するために - なぜ私たちはそれを真に意味のあるやり方で分かち合うことができないでいるのでしょうか?言い方を変えると、国家および国際レベル双方でなぜ私たちは分かち合いの経済を疎かにし弱体化し続けるのでしょうか。 

これらの疑問が政策立案者に突きつけられることは滅多になく、私たちが直面するグローバルな非常事態の範囲についての、そして、もし私たちがそれを優先するなら、生命を脅かす貧困がどれだけ簡単に回避され得るかについての公的討論が、あからさまに欠落しています。これらの問題について圧力をかけられる時、外国で生活する人々を助けるどころか自国民さえをも守るための資金を政府が単にきらしたからだと公選された役職者たちはしばしば主張します。勿論そのようなレトリックは、貧困生活のなか「世界人口の半分」の生活様式をテレビで目撃するかたわら、金融危機以来、直接銀行に手渡された何兆ドルもの金額について知る人口の残りの半分にとって納得がいくものではありません。

政府の歪曲した優先事項に対する数多くの根本的理由があるとはいえ、企業部門の拡大するパワーおよび影響と合わせて[ボックス5を参照]、何十年間も政策立案を支配してきた市場主導型価値観からそれらは大体のところ生じています。プログレスへのこれらの定着した障壁を乗り越えることは、人々が連帯を強化し、何よりも基本的な人間のニーズを優先するよう結束して政府に要求することを必要とするでしょう。

国内および国家間でさらに平等に資源を分かち合うことをもし政府らが誓うなら、世界人権宣言に謳われている万人の人権を確保するという、国際コミュニティの長期に渡る熱望は成就され得るでしょう。第2時大戦後、多くの欧州諸国で国家債務が今日のそれを超過したレベルであったにもかかわらず、社会福祉の完全なパッケージをもたらした欧州政府らはこれを理解していました。1933年から1936年までの間、アメリカでは最も厳しい経済不況の間、経済計画としてのニューディール政策シリーズの一環として、ルーズベルト大統領は同じような方針を導入しました。1948年、戦争で破壊された国々の再建設および経済復興を支援する目的で、米国はマーシャル・プランの一環として数多くの欧州の国々への大規模な財源のトランスファー開始に取り掛かりました。

自国および海外双方でより広いコミュニティの利益となるよう財源を分かち合うこれらの画期的な方策をさらに蝕むのでなく、社会の全レベルにおいて分かち合いの経済を拡大していてもよい頃です。そうするには資金不足だという政府の主張に対して、この報告書で提示される提案は明瞭なメッセージを政策立案者に送ります:私たちには十二分の資金がありますが、それを分かち合う意欲が欠落しているのです。


ボックス5:政府はなぜ分かち合いの経済を支援しないのか?

貧困および不平等の構造的原因に取り組む完全な解決策は世界中の市民社会組織によって情熱的に提唱されているにもかかわらず、彼らが直面する政治的、経済的現実を考慮すると「非現実的」だとグローバル・ノースの政策立案者によってしばしば撥ね付けられています。漸進的な改善、そして気候変動、不公平な貿易および第三世界の債務などの緊急なグローバル問題に少しずつ取り組む試みは、そのプログレスが痛いほど時間がかかるにもかかわらず、国際政策についてのディスカッションの大黒柱です。不均衡なグローバル経済および貿易システムのより完全な改革への中心的障壁は、1980年代初頭以来、主流の経済学者および政策立案者の間で最高の営みとしてそれ自体を堅固に確立してきた、市場賛成論的あるいは「自由主義的」イデオロギーです。   

その活動が国内の管轄を超えるかたわら、多くの主権国家より遥かに大きい経済力を多国間企業が蓄積している現在 - 大企業の力および影響を規制することへの政府の結果的な不本意さは、経済的グロバリゼーション時代の間確立されてきました。これは、政治的プロセスに影響をおよぼすために企業のロビーイストによって毎年何十億ドルもが費やされる米国で最も顕著です - それは、欧州連合において、そして世界貿易機関における交渉の間、再現され続ける驚異です。4、50年間、特に、ますます洗練された宣伝方法によって、断続的成功のために持続不可能な生産および消費レベルに構造的に依存する世界経済を、企業の影響下にある公共政策は漸進的に形取ってきました。

市場主導型政治の主要な原動力の動向は、経済の管理を公共から民間部門へと移行させることです。中世においてまさに共有地が漸進的に「取り囲まれた」ように、種、情報および技術などの共有リソースが多国間企業によってますます民営化、管理されています。利益のために公共財の私有を促進するこの市場ベースのシステムの維持を助力するために、(世界貿易機構によって強化される)国際規制が制定されます。同じように、医療、教育および水が民間企業によって提供されることは現在一般的であり、そのため人々は基本的サービスや光熱水費を払うことができなくなります。個人的および地元での消費のために伝統的に耕作された主食は現在大きく商品化され、多くの場合、十分な購買力を持たない人々には手の届かない価格に跳ね上がり、多くの貧困国において上昇する飢餓レベル、食糧価格危機および民間の動乱をもたらしています。

最終的には経済成長が万人に利益をもたらすという神話が遠い昔に打ち砕かれたにもかかわらず、世界銀行および国際通貨基金のような多国間機関は、世界的不平等を増大させる政策を促進し続けます。周知のように、限界のある資源を持つ惑星での終わりのない成長は持続不可能です。この行き詰まりは生態学的劣化および気候変動によってさらに悪化しています - それは、これら多数の危機への責任が最もない極貧者に桁外れな影響をおよぼす、経済的「プログレス」の副作用です。

発展への完全な市場ベースのアプローチは、世界の大多数派である貧困者の基本ニーズを確保することに常に失敗してきました。それゆえ代替的メカニズムは、最貧困者が基本的人権として生活必需品への即座のアクセスを保証せねばなりません。国家の相互依存、そして世界の天然資源および経済力の偏った分配を考慮すると、これは分かち合いの原理によって導かれたグローバル・ガバナンスのさらに包括的システムを発展させるという、国際コミュニティにとっての大チャレンジを提示します。

このボックスは、シェア・ザ・ワールズ・リゾースィズによって2011年9月に発行されたInternational Sharing: Envisioning a New Economy(国際的分かち合い:新たな経済を心に描く)から抜粋されました。


世界復興に向けての第一ステップ 

この報告書に提示されている政策は、より大きくより複雑な全体像の単なる一側面に取り組んでいるに過ぎません。世界の莫大な財源が国家間および社会においてより公平に分かち合われるということは、正義および必要性の問題です。しかし勿論、お金だけでは貧困、不平等および気候変動の根本原因に取り組むことはできません。根本的にこれらの問題の真の原因は本質的に構造上のものであり、それは、国家およびグローバルレベル双方で経済を支配するイデオロギー、政策、機関および実践によってそれらが決定されるという意味です。本当に長い間、政府は民間部門および自由市場を過剰に強調する経済モデルを追求してきたため、人と環境の福利より利益および成長を優先することによって分かち合いの経済を弱体化してきました。世界中の運動家が認識するように、これらの構造上の原因に取り組むことなくして、国際コミュニティは、真に持続可能で公平な世界を決して築くことはできないでしょう。

この世界復興プロセスのなかで - 資源の採掘、生産、分配および消費の方法から、社会や政策立案に多国間企業が振るう影響に至るまで - 社会のおおよそ全側面が再構造化される必要があるでしょう。このグロバリゼーション時代において、今日ますます欠落するある程度の国際協力を必要とするだろう変革が世界規模で起こる必要があります。これらの緊急の改革は、国内および外交政策を特徴づける自己利益と激しい競争を越えたところで政府が動き始めない限り起こり得ないでしょう。差し迫った、そして究極的目標は、社会の全レベルでの政策立案が包括的および民主的プロセスであるところの、そして現在と未来世代への公平なアクセスを保証する、環境的に持続可能な方法で協力的に世界資源が管理されるところの、平和で統一された公平な世界です。

この報告書で概説されている方策を通して世界の莫大な財源を分かち合うことは、この世界改革プロセスにおける第一ステップそのものにすぎません。これらの改善対策は、既に自由に利用可能なものをより良く利用するために、比較的小規模な政策変革をもたらすことを政府に要求します。それにもかかわらず、もし政府がそのお金を効果的に使用するなら、これらのシンプルな改革は、不必要な貧困関係の死を著しく削減し、貧困国による気候変動の緩和・適応を可能にすることによって、人類に大きな利益をもたらせるでしょう。これらの目標を達成することは、国際コミュニティにとって途轍もない躍進を記し、即急に続かねばならないより実質的な改革のための道を整えることができるでしょう。

変革の責任は私たちにかかっている

しかしながら、この報告書で詳説されるこの謙虚な提案を実現することさえそもそももしそれらの実現を望むなら、大規模な公衆の指示を必要とするでしょう。気候変動、貧困削減および国際貿易のように様々な問題に関するグローバル会議の何十年もの失敗は、今日の国家間の協力と善意の完全な欠落を明らかにしています。これらのハイレベル会議やサミットの失敗の主な理由は、現在広く認識されています:すべてを犠牲にして利権を維持する力を持つ強力な企業やビジネス・ロビー団体によって政策立案が長期間に渡って捉えられてきたからです。「業務平常通り」がこのロビーの賛歌であり、そして政府の意思決定へのその影響は - 国連での交渉を含み - 現在頂点に達しています。[36]

人類が社会的、経済的および環境的転換点に近づくにつれ、私たちが望む未来の構築を政府だけに依存することをこれ以上できないことは明らかです。より良い世界への希望は、国境を越え拡張する改革への呼びかけに世界の公衆が参加することにかかっています。2011年のピープルパワーの広範な動員が証明したように、結束し認識を持った世論だけが唯一、革新的変革を防ぐ私益に勝るのです。行動する責任は、通常の運動家およびNGOだけでなく、公平に一般人の肩にものっているのです。何千万人という人々が、何が危険にさらされているのか認識すること、そして変革の支持者として先導することは絶対不可欠です - 惑星・地球と未来世代の福利は、グローバルな意識のこの転換に大きくかかっています。[37] 

緊縮経済政策の撤廃、生命を脅かす貧困の根絶および気候変動の人間への影響の緩和によって世界中の人の生命を保護することは、迅速に国際コミュニティの優勢的な目標とならねばなりません。この報告書は、- これまで運動に参加したことのない一般人から経験豊富な活動家やオキュパイ運動、インディグナドおよび学生運動の抗議者のニューウェーブに至るまで - すべての人がこの優先事項を彼ら自身のものにすることを呼びかけます。それは、利益と経済成長への容赦のない推進力より人間のニーズと環境持続性を優先するよう、世界のリーダーたち、政策立案者およびビジネス・コミュニティに呼びかけます。

まさに私たちが自身の家とコミュニティ内で分かち合いを実践するように、その適応が経済の組織化の方法への深遠な意味合いを持ち得るところの、地元、国内および国際レベルでこの同じ原理がまた、公共政策を先導すべきです。世界資源を分かち合うことは生命を救い、国内および国家間の結束を強化し、不平等を削減し、そして平和と安全を助長することを促進します。分かち合いの経済の全形態を支持、強化する結束し認識ある世界世論を築くことは、変革への責任は私たち - 従事する一般市民 - にかかっているのです。


Notes:

[1] Note on definitions: In this report, the terms ‘developed/developing country', ‘Global South/Global North' and ‘rich/poor countries' are used interchangeably for variation, although the authors are mindful of the problems and assumptions that are wrapped up in using these expressions. In particular, the term ‘development' is distasteful to many when it is equated with economic growth or defined narrowly as modernisation, as explained in detail by such authors as Wolfgang Sachs, Arturo Escobar and Gustavo Esteva. However, for the purpose of this report these terms are used in the broadest sense to indicate the differences between the economically-advanced societies of Europe and North America among others, and the less economically and technologically-advanced societies of Africa, Asia and Latin America among others.

[2] The sharing economy is a broad term used in this report that encompasses the many systems of sharing and redistribution that exist locally, nationally and globally - whether facilitated by individuals, states or other institutions. It is concerned with the social, economic, environmental, political and spiritual benefits of sharing both material and non-material resources - everything from time and knowledge to money and natural resources.

[3] Richard Wilkinson and Kate Pickett, The Spirit Level: Why Equality is Better for Everyone, Penguin, 2010.

[4] Claire Melamed, Global Redistribution as a Solution to Poverty, Institute of Development Studies, IDS In Focus Policy Briefing, Issue 11, October 2009.

[5] Note: International trade, foreign direct investment and even IMF financing can all be considered further examples of international redistribution as they involve sizable transfers of financial resources between countries. However, at present only through international aid can rich country governments directly redistribute public money to assist governments and people in poorer countries.

[6] Adam Parsons, ‘Should We Celebrate a Decline in Global Poverty?', Share The World's Resources, 16th March 2012.

[7] Thomas Pogge, The First UN Millennium Development Goal: A Cause for Celebration?, Presented at the University of Oslo, 11th September 2003, www.etikk.no/globaljustice

[8] In this report, the global sharing economy refers specifically to systems of sharing and redistribution that are international or global in nature - whether facilitated directly by people, organisations and governments or by global institutions like the United Nations. It refers to the many methods by which the international community can share their financial, technical, natural and other resources for the common good of all people. The global sharing economy is still in its infancy, but is nonetheless an important expression of the growing sense of solidarity and unity between people and nations.

[9] For example, see: Branko Milanovic, Ethical case and economic feasibility of global transfers, World Bank, August 2007.

[10] For more background and information, see for example: Charles Eisenstein, Sacred Economics: Money, Gift, and Society in the Age of Transition, Evolver Editions, 2011; Jeremy Rifkin, The Empathic Civilization, Cambridge: Polity Press, 2009; Michael Tomasello, Why We Cooperate, Cambridge: MIT Press, 2009; Frans De Waal, The Age of Empathy, New York: Harmony Books, 2009.

[11] Latitude and Shareable Magazine, The New Sharing Economy, December 2010.

[12] Rachel Griffiths, The Great Sharing Economy, Co-operatives UK, 2011.

[13] For an introduction to the concept of the ‘commons' and the ‘global commons' see: <www.globalcommonstrust.org>; <www.schoolofcommoning.com>; <www.onthecommons.org>

[14] Elinor Ostrom, Governing the Commons: The Evolution of Institutions for Collective Action, Cambridge University Press, 1990.

[15] In 1966, the International Covenant on Civil and Political Rights (ICCPR) and the International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights (ICESCR) were adopted by the United Nations. Numerous other treaties were subsequently offered at the international level, generally known as human rights instruments.

[16] Oxfam, 'Bank bailout could end poverty for 50 years - Oxfam tells G20', Press release, 1st April 2009.

[17] BBC News, ‘World 'dangerously unprepared' for future disasters', 27th December 2011.

[18] UNFCCC, The Cancun Agreements, Financial, technology and capacity-building support, New long-term funding arrangements, <cancun.unfccc.int>

[19] United Nations Peacekeeping, Financing peacekeeping, <www.un.org/en/peacekeeping/operations/financing.shtml>

[20] Maha Mussadaq, 'World Food Programme: 2011-2012 operation facing a shortfall of $9.3 million', International Herald Tribune, 24th January 2011.

[21] A report by Bill Gates to G20 leaders, Innovation With Impact: Financing 21st Century Development, Executive Summary, Cannes Summit, November 2011, p. 3.

[22] The United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization (UNESCO) estimated that achieving universal primary education and the wider goals of "education for all" across 46 low-income countries by 2015 would require an additional $24 billion per year on top of an estimated existing national spending on basic

education of $12 billion in 2007. See: UNESCO, Education for All-Global Monitoring Report 2010: Reaching the Marginalized, Paris: 2010.

[23] A report by Bill Gates to G20 leaders, op cit.

[24] Ibid. 

[25] UN Millennium Project, Investing in Development: A Practical Plan to Achieve the Millennium Development goals, New York: 2005, Table 7, p. 57.

[26] International Labour Office, ‘Can low-income countries afford basic social security?', Social Security Policy Briefings, Paper 3. International Labour Office, Geneva, 2008.

[27] Oxfam, 'Bank bailout could end poverty for 50 years - Oxfam tells G20', Press release, 1st April 2009.

[28] Kate Raworth, A Safe and Just Space for Humanity: Can we live within the doughnut?, Oxfam, 13th February 2012.

[29] Maha Mussadaq, 'World Food Programme: 2011-2012 operation facing a shortfall of $9.3 million', International Herald Tribune, 24th January 2011.

[30] Henry Blodget, ‘Corporate Profits Just Hit An All-Time High, Wages Just Hit An All-Time Low', Business Insider, 22nd June 2012.

[31] Capgemini and RBC Wealth Management, World Wealth Report 2012, June 2012.

[32] Note: these figures are broad estimates based on the most recent data available at the time of writing. See individual sections in part 3 for references and further details.

[33] International Labour Organisation, World Social Security Report 2010/11, November 2010.

[34] Refer to part 2 on the ‘global emergency' for references.

[35] For example, see: New Economics Foundation, A Green New Deal, The first report of the Green New Deal Group, 21 July 2008; United Nations Environment Programme, Global Green New Deal, Policy Brief, March 2009.

[36] Paul de Clerck et al, Reclaim the UN from Corporate Capture, Friends of the Earth International, June 2012.

[37] Adam Parsons, When Will Ordinary People Rise Up?, Share The World's Resources, June 2012.


Image credit: Panos Images