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グローバルな分かち合いの経済に融資する - エクゼキュティブサマリー

STWR
2012年10月1日

即時の優先事項として、グローバルな分かち合いの経済に融資するために政府がどのように2兆8000億ドル以上を動員できるか概説します。しかしそれは分かち合いと正義への高まる公衆の大規模な圧力によってのみ、実現され得るのだとSTWRは主張します。

完全レポートはこちらから(英語):グローバルな分かち合いの経済に融資する


概要

人類はグローバルな緊急事態に直面しています。極貧と気候関連の災害は、日々4万を超える人々の生命を奪い、他の多くの何百万もの人々へ容赦なく障害を与えています。同時に社会福祉と必要不可欠なサービスへの公共支出の劇的な削減は、最も裕福な国々でさえ多くの家族が基本的ニーズを充足することをますます難しくしています。

このグローバルな緊急事態は主として、貧困者と弱者を守るため革新的に確立された福祉と再分配のシステムである「分かち合いの経済」を弱体化させる政策を、何十年にも渡って政府が追求してきたことの結果です。特に国際社会は、発展途上国が国民の基本的ニーズを充足し、社会保護の国内システムの強化を促進する目的で国々の間での分かち合いを拡大するために、更に多くのことをできるはずです。

グローバルな緊急事態の構造的原因への取り組みは、かつて試みられたことのない規模の世界経済の大規模な改革を必要とするでしょう。即時の対応として、国際社会は最前の優先事項である貧困関連の死と不必要な苦しみを根絶させるために、驚くべき財政力を動員する手段を持っているのです。この報告書の政策提言は、生命を脅かす剥奪を防ぎ、緊縮政策を覆し、気候変動の人間への影響を軽減するために使用可能なお金、2兆8000億ドル以上を僅かな年数内で政府が再分配することを可能にします。

私たちには既に世界復旧への決定的な第一歩を踏み出すための機関、機構、そして専門知識が揃っています。欠如しているのはこれらの決定的な方策の実現に対する政治的、商業的障壁を乗り越えるための世界の公衆からの十分な支持です。グローバルな分かち合いの経済を強化、拡大するために世界の公衆の意見を動員することは、それゆえすべての国においてキャンペーナーと活動的市民にとって即時の優先事項でなければなりません。


分かち合いの原理は世界中の社会で常に人間関係の基礎を形成してきました。生まれつき人は個人主義的で自分勝手だという共通の誤った考えとは対照的に、生存と集合的な幸福への私たちの可能性を最大限にするために人間は本来協力し合い、分かち合う性質を持っていることを明らかにする報告が相次いでいます。[1]

近年、オープンソース・ソフトウェア、「協調的消費」運動、そして「コモンズ」への最新されたフォーカスなどの進展を通して経済的、政治的分野で分かち合いは再び自然と明らかになってきました。それにもかかわらず、今日の分かち合いの最も重要な表現のひとつが殆どの場合認識されることはありません。議論の余地があるにしても、社会福祉の現代システムは今までに確立された分かち合いの最も進歩した形態です。そして先進国の大部分の人々が、その適切な機能における役割を担っています。

福祉制度は世界中で多種多様な形態で存在する本質的に複雑な「分かち合いの経済」です。革新的な課税と再分配の過程を通して、全体としての社会の利益のために国家の財源(企業の利益同様、個人の所得および資産)の一部を私たちは分かち合います。殆どの先進国政府は人口のより多くが医療、教育、そして他の重要な形態の社会保障へアクセスできることを確かにするために税収の大部分を再分配します。

しかしながら分かち合いの経済を確立、強化する過程が初期段階にある地域も世界にはあります。多くの低所得国は課税や公共サービスの提供を通して、富と所得を再分配するための効果的なシステムの構築に必要な資源を持ち合わせていません。多くの場合、発展途上国は経済的発展を妨げる多くの付加的な社会的、環境的、そして経済的問題を抱えています。それに加えてドナー国の寛大さの欠如と自己本位は、グローバルな分かち合いの経済を融資するために裕福な先進国によって使われている、現在唯一の機構のひとつである外国援助の既存のシステムを大幅に妥協させているのです。[2] これらの現実は国内だけでなく国家間でも分かち合いを拡大する緊急の必要性を指摘しています。

分かち合いの経済を弱体化させる

国内および世界的に分かち合いの経済を強化、拡大するよりむしろ何十年もの間、政府は社会福祉システムを弱体化させ貧困と不平等を激化させる政策を追求してきました。1980年代以来、一握りの人間による規制のない富の創出の促進を支持し、経済成長の利益を社会全体でより公平に分かち合う政策を政府はますます縮小してきました。今日、分かち合いの経済の基盤自体が社会福祉と必要不可欠なサービスへの公共支出を緊縮政策が劇的に削減している国々でさらに蝕まれています。

既に大変不平等な世界で所得と富を再分配する政策を疎かにすることは、グローバルな緊急事態としてしか言いようのない状況を生み出しています。例えば、OECD加盟国全体を通して貧困率は10年間上がり続けており、2008年の世界的経済危機後、急激に悪化しました。[3] 発展途上国の人口のおおよそ半分が1日2ドル未満で生き延びる一方で、貧困国では10億人足らずの人々が飢餓者として正式に分類されています。[4] 同時に、3億人が現在地球温暖化によって障害を受けており、その結果、毎年30万人が生命を失っています。[5] 全体で毎年千5百万人が主に栄養価の高い食糧、基本的医療サービス、またはきれいな飲み水と衛生へのアクセスの欠如によって亡くなっています。それは、毎日起こる4万以上の予防可能な死に相当します。[6]

人類に直面する最も緊急を要する問題の根本原因の多くは複雑であり、それらへの取り組みはグローバル経済を支える機関と政策の大規模な改革を必要とするでしょう。それは、私たちの時代の最重要な挑戦として広く考慮される務めです。この世界復旧の過程において社会のおおよそ全側面が – 資源の採取、生産、分配、そして消費の方法から多国籍企業が社会と政策立案に振るう影響力まで – 再構築を必要とするでしょう。しかし、人類がこれらの斬新な変革が起こるのを待てる状況ではありません。私たちは緊急に今日、生命の救出と極度の剥奪の根絶への勇気ある一歩を踏み出す必要があります。そしてこのレポートが明示するように、そうすることは経済的に大いに可能なのです。


ボックス1:経済の分かち合いとは何か?

経済の分かち合いはそれが個人、国家、または他の機関によって促進されようと、地域的、国家的、そして世界的に存在する分かち合いと再分配の多くのシステムを包括する、このレポートで使われる幅広い言葉です。それは、時間と知識からお金と天然資源まで全ての物質的及び非物質的双方の資源の分かち合いの社会的、経済的、環境的、政治的、そして霊的利益に関係しています。  

 比較すると、グローバルな分かち合いの経済はそれが人々、組織、政府、または国連のような世界機関によって直接的に促進されようと、性質的に国際的または世界的な分かち合いと再分配のシステムを明確に指しています。それは、国際コミュニティーが万人の共通利益のための財源、技術資源、天然資源を分かち合うことのできる多くの方法を示しているのです。グローバルな分かち合いの経済はまだその初期段階にあるとはいえ、それは人々と国家間の広がる連帯感と結束感の重要な表われなのです。


世界の財源を動員する

このレポートは経済的緊縮政策を破棄し、命を脅かす剥奪を防ぎ、気候変動の人間への影響を軽減するために、世界中で分かち合いの経済を強化するための十二分なお金を政府がどのように役立て得るかを明示します。下記に要約された政策の選択肢を活用することにより政府は国内及び国家間双方で分かち合いの経済を強化するために、毎年2兆8000億ドル以上を動員することができるでしょう。

この付加的財政を利用するために必要な構造、機構、専門知識は長い間揃っていました。例えば、世界中で災害救助を提供し、貧困関連の死を防ぐためにやむことなく働き続ける多くの国際機関があります。国際コミュニティーは発展途上国における気候変動への適応策・暖和策を促進するためのまとまった資金と他の対策をすでに確立しています。[7] 社会保護の観点からは多くの発展途上国は国民に必要不可欠な公共サービスを提供するために、福祉のさまざまなシステムをすでに整えています。そして、基本レベルの社会保護が世界のGDPの僅か2%で世界の貧困者へ利用可能となることを保障できるのです。[8]

全世界の経済が収縮し失業率が上昇しているこの時、既存の機関及び利用可能な財源のより良い使用はまた健全な経済理にかなっています。グローバルな分かち合いの経済を強化することは、グローバル・サウスにおいて無数の生命を救い、何百万という人々が社会的、経済的、政治的、そして文化的営みへ貢献できるようにすることが可能でしょう。緊縮政策を破棄することは先進国の国民の健康、幸福、そして可処分所得を拡張させ、経済に相当な効果をもまたもたらすでしょう。貿易及び金融の関係が世界中に広がる相互依存の世界では、人間の生命へのこの大規模な投資は需要を刺激し、雇用の機会をつくり、政府税収を実質的に増やすことができるでしょう。

今日の国家債務のレベルを上回っていたにもかかわらず、第二次世界大戦後、ヨーロッパ諸国の政府の多くは社会福祉政策の包括的パッケージをもたらした折、分かち合いの経済を拡大する必要を理解していました。ルーズベルト大統領はアメリカの最も厳しい経済不況の1933年から1936年の間、経済政策であったニューディール政策の一環として同じような方針を導入しました。1948年、合衆国は戦争で破壊されたヨーロッパ諸国の再建設と経済回復を援助するために計画されたマーシャルプランの一環として、それらの国々への財源の大規模な移転の開始に取り掛かりました。自国と外国のより幅広いコミュニティの利益となるよう財源を分かち合うためのこれらの画期的政策をさらに損なう代わりに、社会の全レベルで私たちが分かち合いの経済をすでに拡大していても良い時なのです。


ボックス2:生命を救うための僅かなコスト  

ー1日1.25ドルの極貧ラインから14億人を引き上げる:1,730億ドル[9]   
ー中央緊急対応基金(CERF)の2011年度不足額:4,500万ドル[10]    
ー全ての低所得国のためのミレニアム開発目標(MDGs)の不足額を供給するための総額:1,430億ドル(2011年)[11]    
ー国際連合世界食糧計画の2011年度不足額:1,410億ドル[12]   
ー貧困国の全ての幼児に予防接種を提供する:30億ドル[13]   
ーグリーン気候基金を融資する:年間1,000億ドル[14]   
ー極貧の中で生活する全ての人々へ基本的社会保護を提供する:1兆2,600億ドル[15]



プログレスへの障壁を乗り越える

このレポートに強調される対策を実現することは、緊急に従わねばならないより堅固な改革のための道を整え、人類へ大変大きな利益をもたらし、国際コミュニティーへ向かっての素晴らしい躍進を記念できることでしょう。もし私たちにグローバルな緊急事態の最悪の影響を改善するために必要とされるお金、機関、そして技術的知識があるなら - そしてそうすることが健全な経済理にかなっているのなら - なぜ私たちは国家及び国際レベル双方で分かち合いの経済をおろそかにし、弱体化させ続けるのでしょうか。

これらの疑問が政策立案者へ突きつけられることは稀であり、グローバルな人道緊急事態の範囲、そしてもし私たちがそうすることを優先するなら、命を脅かす剥奪がどれだけ簡単に防止され得るかについての国民的論議が完全に欠如しています。これらの問題について押される時、海外居住者は勿論のこと国民を保護するためのお金が政府には単に足りないのだと選出議員はしばしば主張するのです。この向上心の欠如と政治的惰性には政策立案者、経済学者、そしてビジネスリーダーたちによる世界問題の取り組みへの純粋に市場ベースのアプローチの優勢性を含む多くの複雑な原因があります。余りにも長い間政府は民間部門と自由市場を過度に重視した経済モデルを追求してきており、従って、万人と環境の健康と幸福より利益と成長を優先することにより分かち合いの経済を弱体化しているのです。

この政治的現実を考慮する時、タックス・ヘイブン(租税回避地)の閉鎖、道理に反する補助金の転用、または軍事支出を削減するなどの適度な提案でさえを実施することは、大規模な公衆の支持を必要とするでしょう。より良い世界への希望は、国境を越えて拡大する変革への呼びかけへの世界の公衆の参加にかかっています。2011年の広範囲にわたる人々の力の動員が証明したように、結束した、認識ある世界世論のみが革新的変革が起こることを妨げる私益に勝るのです。立ち上がる責任は通常のキャンペーナーや市民社会組織だけではなく、直接的に一般人の肩にのしかかっています。[16] 何が危険にさらされているかを何百万というさらなる人々が認識し、そして変革の支持者として先導することは必須です - 惑星・地球と未来世代の幸福は、主に公衆の意識中のこの転換にかかっているのです。

グローバルな分かち合いの経済に融資するための政策

このレポートのパート1と2は分かち合いの経済の卓越した模範として革新的な課税と社会福祉のシステムを説明し、そして不平等、貧困、生命を脅かす剥奪が直接的に、世界の富と資源をより公平に分かち合うことの私たちの失敗と関係していることを示します。これらのセクションは分かち合いの経済を強化、拡張することが国内及び国家間でどのように生命を救い、連帯の絆を深め、そして不平等を減らすことができるかを説明します。パート3で提示される各々の提案は、租税及び債務正義から道理に合わない政府の補助金の転用まで、グローバルな分かち合いの経済を融資するために政府が実施できる具体的な政策を提供します。

これらの政策措置の多くはまた、より少ない軍事支出、より少ない国家債務、より少ない企業福祉、より公平な国際貿易体制、そしてより革新的、効果的な課税の形態をともなう世界の確立を促進することによりそれだけでも大いに有益となるでしょう。これらの長期的な広く支持された目標を達成することは、革新的変革へと取り組む何百万もの人々の勝利を知らしめ、緊急に追従を求められる世界の経済的、政治的システムへのより斬新な変革のための道を整え、国際的コミュニティーへの正しい方向性への多大な一歩となるでしょう。

もしこのレポートの全ての政策とキャンペーンへの公衆の支持が拡大し続けるなら、世界規模の世論を動員し、政府の政策を迅速に変えることが現実となります。これを起こすには、このレポートを読む全員が - 特にこれらの問題を初めて知る人々が - 分かち合いと正義の世界的呼びかけに協力せねばなりません。

10の政策提言の要約

1.金融投機へ課税する - 6500億ドル

金融市場への投機は「本当の」経済(実際の物資とサービスの生産に関係する)からますます切り離され、世界中の経済を不安定にさせてきました。投機の主な受益者は少数派のエリート・トレーダー、投資銀行、市場の乱高下からとてつもない利益をあげることのできるヘッジファンドとその他の企業です。

金融取引税(FTT)は最も不安定な取引慣行を抑制することによって、市場の規制を促進できるでしょう。もしそれが世界的に実現されれば、政府が貧困へ取り組み、緊縮政策を破棄し、そして気候変動へ対処するために、一年に6,500億ドルまでを募ることができるでしょう。[17]

これは、市民社会がうまく勝利することのできるキャンペーンです。しかし、北アメリカとヨーロッパの金融業界と多くの政治家たちからの依然として残る課税への著しい反対をもっては、金融取引税(FTT)の世界的実現への要求をキャンペーナーがあくまで貫き通すことは必須です。

2.化石燃料への補助金を廃止する - 5310億ドル

化石燃料の燃焼は地球温暖化の主な原因であり、去年、過去最高に達した炭素排出量に主な責任があります。もし政府が化石燃料の生産者と消費者へ提供する大規模な補助金を通して「汚いエネルギー」の乱用を促進し続けるなら、CO2排出量の安全レベルを保つのは不可能でしょう。

もしバイオ燃料と化石燃料の補助金の全形態が2020年までに革新的に徐々に廃止されるなら、政府は年間最高5,310億ドルを募ることができるでしょう。[18] この巨額のお金はエネルギーへの普遍的アクセスを確保し、世界規模での再生可能エネルギーへの多額の投資を最大限に活用し、そして各国の気候変動の軽減、適応を促進できるプログラムへ資金を供給するために十分です。

化石燃料を廃止するためのキャンペーンは、国際コミュニティーの間でかなりの支持を持っており、気候変動へ対してのたたかいにおいて遥かに大胆な行動をとるよう政府への圧力が増すと同時に、重要な公衆の要求として維持していかねばなりません。

3.軍事支出を転用する - 4345億ドル

2001年以来、世界中の政府による軍事支出は50%以上上昇し、世界の一人当たり年間約250ドルに値する一兆七千億ドル以上に達しています。武力紛争や戦争を減らす第一歩として、各政府が軍事予算の相当な削減を導入することがきわめて重要です。

現在の世界的軍事支出の僅か4分の1の転用が、生命の救済、極端な剥奪の防止、そして国連平和維持活動の強化のために使われることも可能な年間4,345億ドルを解放するでしょう。

貧困、不平等、そして減少する天然資源によってもたらされる世界平和への悲惨な脅威を考慮すると、紛争の根本的原因へ取り組むために国際協力と経済の分かち合いに基づいた新たな安全保障戦略を各国は緊急に取り入れねばなりません。

4.租税回避をやめさせる - 3490億ドル

富裕者と多国籍企業による租税回避は政府が膨大な額の付加的な公的収入を多くの場合見逃しているということです。非常に秘密主義的なタックス・ヘイブン(租税回避地)のグローバル・ネットワークに促進され、そして国内及び国際税規制によって「合法化」された租税回避は一大産業です。

世界的な租税回避の全形態を廃止するための最小限の一歩として、タックス・ヘイブンの取り締まりと法人税乱用の防止は毎年3490億ドル以上を募ることができるでしょう。[19] しかしながら違法な脱税の防止、グローバル・サウスでの租税制度の強化、そして富裕国でのより革新的な課税政策の取り入れは、さらに何億ドルもの歳入を毎年募ることができるでしょう。

世界中の国々の租税制度の強化は国々が財源をさらに公平に分かち合い、貧困者と弱者を守るための最も実際的方法としてとどまります。租税回避と脱税へますます注目が増すと同時に、すべての国の活動的市民は国際的な税の正義を断固として支持せねばなりません。

5.外国援助を増す - 2975億ドル

政府開発援助(ODA)は国際コミュニティーが現在、グローバルな分かち合いの経済へ資金を供給する主な方法です。しかし、外国援助はドナー国の私欲によって大幅に妥協させられ、発展途上国から裕福な先進国への準現金収入によって萎縮させられています。

外国援助制度が大改革を必要とするにもかかわらず、短期的に政府開発援助(ODA)を国民総所得(GNI)1%に増すことは、年間、付加的な2975億ドルを募ることができるでしょう。それは、発展途上国の緊急の必要額と遥かに合致します。[20]

より長期的に貧困を根絶するためには、国内及び国家間で富と権力をより平等に分かち合う目的をもつ世界経済の広範囲な構造改革と並んで、低所得国が租税と社会保護の制度を発展させるよう助長することが必要でしょう。

6.アグリビジネスへの援助を廃止する - 1870億ドル

農業補助金は政府が環境的に破壊的、社会的に不公平な農業と貿易モデルをどのように援助しているかという一番の例です。これらの道理に反する補助金を転用することは、もし世界が食糧危機に取り組み、飢餓を減少させ、環境を保護することに真剣であるのなら、緊急優先事項です。

裕福な農家と有力な農業関連産業を援助するようつくられた不適切で無駄な補助金の除外は、毎年1870億ドルを募ることができるでしょう。そして代わりにそのお金はグローバル・サウスにおいて貧困に取り組み、食料安全保障を高めるために使われることができるのです。[21]

食料主権の原理に従い、残りの補助金は小規模生産者や「アグロエコロジー」農業の営みを援助するために適応し直されるべきです。小規模農家の営みを支援するさらに公平な貿易規定と他の対策を含み、世界の食料システムのより幅広い改革もまた、農業危機の根本原因へ取り組むためには必須です。

7.IMFの財源を役立てる - 1155億ドル

経済政策決定への国際通貨基金(IMF)による強力な影響力は世界中で深い論争の的となる世評を得てきました。グローバル・サウスを通して多くの市民社会団体と何百万という市民は、国際通貨基金(IMF)とその市場主導型の政策を社会的、経済的正義への脅威として見ています。

それでもなおIMFは貧困撲滅と気候変動ファイナンス目的のために膨大額の付加的資金供給を募り再分配する能力をもっています。IMFの特別引出権(SDR)は年間1000億ドル募ることができ、IMFの相当量の金準備の革新的売却は10年間で追加的155億ドルを募ることができるでしょう。[22]

IMFの資産の再分配はその低迷する正当性を修復し、何十年もの国際財務不正を埋め合わせ、そして長期的なグローバルな経済構造へのさらに広範囲な改革への道を整えることを促進できるでしょう。

8.低質燃料に課税する - 1080億ドル

キャンペーナーは化石燃料使用の価格は環境的、社会的、または経済的影響の現実的代価を正確に反映していないと長い間議論してきました。人口的に低価格の燃料油、燃焼ガス、石炭はまた、それらへの過度の依存を促進し、気候変動を悪化させ、代替的形態のエネルギーの発達を妨げてきました。

化石燃料の二酸化炭素排出量への課税は、毎年1080億ドルを追加的歳入として募ることができるでしょう。[23] その課税はまた化石燃料をより効果的に使うための誘引をもたらし、低炭素技術への推移を促進することを助け、そして国際的な気候変動ファイナンスのために相当な資金を募るでしょう。

さまざまな形態の炭素税がすでに多くの国で導入されており、そして多くの先端的な科学者、環境保護団体、経済学者が高度に複雑で論争の的となっている排出取引制度の有力な代替としてそれを支持しています。

9.不当な債務を取り消す - 810億ドル

発展途上国には4兆ドルを越す多大な債務があり、この返済に毎日14億ドル以上を払っています。それは、彼らが援助で受けるより400%多い額です。これらの資金は返済の代わりに、彼らが緊急で必要とする社会福祉や公共サービスに使われるべきです。

現在7350億ドルと見積もられている不法な「独裁的な債務」を取り消すだけで、発展途上国での公共支出のために年間810億ドルを解放することができるでしょう。[24]

全ての不当で支払い不可能な発展途上国の債務の無条件の取り消しは、世界の財源のより公平な再分配達成のために不可欠です。より長期的に債務救済はまた最も貧しい国々での経済成長へ貢献し、援助への依存性を減らすことを助長し、そして国際金融機関ではなくむしろ人々による政府への責任追及を可能にできるのです。

10.輸入税を保護する - 634億ドル

輸入税からの所得は発展途上国にとって歳入の重要な源です。しかしながら自由貿易協定(FTAs)の条件として、または金融支援の代償として輸入税を減らすことを彼らはますます強いられています。

もし現在の世界貿易交渉がひとしきり成り立ったなら、貧困国は輸入税の削減から634億ドルを失うことが可能でしょう。それは、貿易拡大から彼らが収益するであろう推定額の4倍以上です。[25] さらに、富裕国と貧困国の間で現在交渉されているFTAsの多くは、グローバル・サウスの各政府の関税収入をさらに減らすでしょう。

富裕国とグローバル機関は不当な貿易規定の遵守を貧困国に無理強いすることを止めねばなりません。代わりに各政府は各々の開発目標に沿って国家経済を規制するために、彼らが必要とする政策空間を付与されねばなりません。


後注

[1] For example, see: Jeremy Rifkin, The Empathic Civilization, Cambridge: Polity Press, 2009; Michael Tomasello, Why We Cooperate, Cambridge: MIT Press, 2009; Frans De Waal, The Age of Empathy, New York: Harmony Books, 2009; ABC Science, ‘Humans May Be Hardwired to Share', 28th August 2008.

[2] See the main report section on ‘Increasing international aid' for more information.

[3] OECD, Doing Better for Families, 27th April 2011.

[4] See latest data from the Food and Agricultural Organization of the United Nations (FAO), and the World Bank.

[5] Global Humanitarian Forum, The Anatomy of a Silent Crisis, Human Impact Report: Climate Change, Geneva: May 2009.

[6] Figures based on World Health Organization, Disease and injury regional estimates, Cause-specific mortality: regional estimates for 2008, <www.who.int> Note: Only communicable, maternal, perinatal, and nutritional diseases have been considered for this analysis, referred to as ‘Group I' causes by the WHO. Ninety six percent of all deaths from these causes occur in low- and middle-income countries and are considered largely preventable.

[7] Most notably, international climate change negotiations under the UNFCCC framework led to the launch of the Green Climate Fund in 2011, although there is still uncertainty over how governments will adequately finance its operation by 2020.

[8] International Labour Office, ‘Can low-income countries afford basic social security?', Social Security Policy Briefings, Paper 3, Geneva, 2008.

[9] Oxfam, 'Bank bailout could end poverty for 50 years - Oxfam tells G20', Press release, 1st April 2009.

[10] BBC News, ‘World 'dangerously unprepared' for future disasters', 27th December 2011.

[11] UN Millennium Project, Investing in Development: A Practical Plan to Achieve the Millennium Development goals, New York: 2005, Table 7, p. 57.

[12] Maha Mussadaq, 'World Food Programme: 2011-2012 operation facing a shortfall of $9.3 million', International Herald Tribune, 24th January 2011.

[13] A report by Bill Gates to G20 leaders, Innovation With Impact: Financing 21st Century Development, Executive Summary, Cannes Summit, November 2011, p. 3.

[14] UNFCCC, The Cancun Agreements, Financial, technology and capacity-building support, New long-term funding arrangements, <cancun.unfccc.int>

[15] International Labour Office, ‘Can low-income countries afford basic social security?', op cit.

[16] Adam Parsons, When Will Ordinary People Rise Up?, Share The World's Resources, June 2012.

[17] Calculated using a low-rate FTT of 0.01-0.05%, applied differentially to a wide range of transactions.

[18] Calculation based on the elimination of producer subsidies ($100bn) + biofuel subsidies ($22bn) + the progressive elimination of consumer subsidies by 2020 ($409bn).

[19] Clamping down on the use of tax havens by high-net-worth individuals could raise $189bn, and preventing multinational corporations from using trade mispricing and false invoicing to artificially boost their profits could secure an additional $160bn annually for developing countries.

[20] Calculations based on OECD Official Development Aid figures for 2011 when donor countries gave a total of $133.5bn in ODA, equal to 0.31% of combined GNI of DAC member countries. Increasing ODA to 1.0% of GNI ($430.6bn) would raise an additional $297.5bn.

[21] Eliminating inappropriate and wasteful agricultural subsidies is likely to require steep cuts, in the range of 50% to the current $374bn spent annually across OECD countries

[22] The market value of the IMF's gold (less its historic cost) amounts to $155.2bn. Note that it could also be possible to raise an additional one-off $165bn by transferring existing SDRs.

[23] A tax of $25/ton of CO2 emissions applied across all OECD countries could raise $301bn each year. Making only a quarter of this sum available could raise almost $75bn each year. A similar tax on emissions from the shipping and aviation industries could raise $23bn, and a further $10bn annually could be raised from a ticket levy on international flights (although this is not strictly a carbon tax).

[24] In 2010, developing countries paid $180bn servicing $1,583bn of debt, which represented 11% of the total value of their debt stock. We therefore estimate that the annual combined savings for developing country governments is 11% of the total amount of debt cancelled. If $735bn of debt was cancelled, 11% of this amount is $81bn in potential savings.  

[25] Note that this figure only relates to industrial goods under the NAMA (Non-Agricultural Market Access) agreement being negotiated in the WTO Doha Round.