問題は、コーヴィッド19が、良心の呵責のない世間が長い間無視してきた人類の多数派の貧困化をさらに激化させる新たな原因となるのか、それとも世界の深刻な不平等に対して私たちを目覚めさせるのかどうかということです。
2020年初頭から、私たちは並外れた新時代に突入しました。この先のことについては、依然としてかなりの恐怖と不確実性があり、ほとんどの国は、戦後において前例のない一種の社会的および政治的革命を経験しています。しかし、コーヴィッド19の被害者の悲劇と苦しみのなかで、この画期的時期の将来の可能性への希望が再び湧いています。あらゆるタイプの政治運動家は、より公正で持続可能な経済を開始させる可能性のある転換点としてこの危機を想定して、彼らの革新的アジェンダを展開しています。
このように楽観的な理由は明白です。主要経済の一時的凍結のため巨大な規模で国家が介入することは、この時代の支配的イデオロギーとは直接に矛盾しています。ほぼ40年に渡って世界を動かしてきた自由市場の教義は、今一度、事実上消滅しています;その代わりに、政府は経済的大惨事を回避するための経済計画の巨大な偉業に着手することを余儀なくされています。
西側諸国において課されたロックダウンは、以前考えもおよばなかった社会的連帯政策を必要としました。救助プログラムは、社会保証方策、現金援助、労働者の権利の点で大きく異なりますが、何百万もの人々の生活を保証するために政府が介入する以外選択肢はありません。
多くのスキームの欠点にもかかわらず、それは、政府は徹底的な高社会的投資を実施する余裕がないという神話を劇的に打破しました。特に緊縮政策や不可欠な公共サービスの民営化を緩めることによってまで、すべての人が適切な生活水準を享受できる権利を保証するというような事例は、これまでありませんでした。
ユニバーサル・ベーシックインカムでさえ、人々の関心が突然高まり、すべての政党の政策立案者によって真剣に議論されています。各方面から、市場の限界を認識し、基本的人権のために資金を投入する、異なった種類の経済を構築することへの要求が高まっています。
しかし、このパンデミックの最悪のピークはまだ到来しておらず、これがどのような展開になるかを判断するにはまだ時期尚早です。世界の金融市場の崩壊は差し迫った可能性であり、恐らく記録的次元の世界的景気後退はほぼ確実です。それでは社会的セーフティネットや経済的優先事項についてはどうなるのでしょうか - 調整の重荷は本当に大企業と豊かなエリートが負担するのでしょうか、それとも2008年以降のように、政府は貧困者と一般労働者にコストを負担させるのでしょうか?
不公平な結果
ひとつの確実性は、すべての経済危機においてそうであるように、社会の最も脆弱で排除された人々が最悪の結果に苦しむことです。コロナウイルスは、私たち全員に影響を与え、社会経済的階級によって差別しないかもしれませんが、ロックダウンの経験は、社会における個人の地位や場所によって非常に異なるでしょう。これはなによりも、基本的な公衆衛生アドバイスにさえ従うことができない世界の最も虐げられた場所で生活する人々に関係しています。絶え間ないメディアの報道は現在、スラムに住む10億人の人々が社会的距離を保つ方法や、きれいな水や衛生設備にアクセスできない場合(世界人口の40%が苦しんでいる状況)に頻繁に手を洗う方法についてなどの疑問を投げかけています。
見通しは、何百万もの移民や難民、囚人、ホームレス、災害の多い地域に住む人々にとって恐ろしいものです。彼らは感染に最もさらされているだけでなく、質の高いヘルスケアにアクセスすることができず、収入の損失によって最も影響を受けます。世界の2590万人の難民は、政府の支援パッケージをまったく期待できません。そのなかの膨大数の人々が混み合った一時滞在施設で自己の身を守るしかないまま取り残されている可能性があります。
多くの低所得国にとって、現在の健康危機は、紛争、干ばつ、蝗害、永続する貧困などの既存の人道的問題を悪化させる「ダブルタップ」になり得ます。ヘルスケアシステムは、とくにIMF支援の緊縮財政で削減が課されているグローバル・サウス全体を通してすでに負担がかかり過ぎています。多くの国々が、社会保証制度を弱体化させ、労働者の権利を縮小させ、不安定労働を深刻化させてきた財政調整プログラムの波に耐えてきました。
もしウイルスが「第3の波」として – 中国に続いてヨーロッパ、そしてその後発展途上諸国全体を通して – 出現した場合、他の人道的惨事によってすでに弱っている資金不足の政府にとって破壊的なものになる可能性があります。
ジョン・ビルガーが思いださせたように、コーヴィット19による死は毎日不必要に亡くなっている24600人の人々、あるいは予防可能なマラリアで亡くなっている3000人の子供たちの数と比較すると依然として色あせます。結核や肺炎のような他の貧困の病気、イエメンのコレラ危機、ベネズエラやイランなどの国々における経済制裁が原因で日々起こる無数の死については言うまでもありません。これらの人々のためにパンデミックや世界的緊急事態が宣告されたことはありません。
したがって、コーヴィット19は、世界の深刻な不平等と不正義に対して私たちを目覚めさせるのでしょうか。それともそれは、良心の呵責のない世間が長い間無視してきた人類の多数派の貧困化をさらに激化させる新しい原因を意味するだけでしょうか?
グローバル・アクションプラン
発展途上国にとっての大きな課題を考えると、政府らが真の協力と国際資源の分かち合いを通して世界的な健康緊急事態に対応することは不可欠です。発展途上国は、ウイルスの社会経済的影響が根を下ろす以前からでさえそうでしたが、商品価格の下落と外国直接投資の減少、観光業の衰退と国内需要の弱まりによって不安定になっています。
重債務国はまた、輸出の減少と借入コストの急激な増加という「二重の打撃」に直面しており、東南アジア、ラテンアメリカ、アフリカを巻き込む新たな債務危機の見通しが高まっています。 しかし、グローバルな経済の分かち合いの必要性は道徳的義務を超えます:これらの地域が混乱に陥ることを防止しない限り、ウイルスは世界中を周回し、先進国に再輸入される可能性があります。
緊急時対応計画の規模は、政府らに公衆衛生への世界規模で調整された大規模な投資の実施を要求するオックスファムによって大胆に要約されています。これには、史上初の、ある程度の国際的な援助の供与と、貧困国に対する無条件の債務の利払いの即時の一時停止が必要です。
オックスファムは、世界の人口のほぼ半分が住む85か国の最貧国の2倍の医療費を支出するには、1,595億ドルの費用がかかると見積もっています。 これを、米国と欧州連合が緊急救援措置に投入した数兆ドルと比較してください。 対照的に、国連はこれまでのところ、人道危機対応計画に資金を提供するためにわずか20億ドルを要求したのみです。それは危機の規模と複雑さを考えると非常に不十分にもかかわらず、まだ満たされていません。
この緊急救援に加えて、世界経済を長期的に変革することが急務です。 コロナウイルスの危機は、タックスヘイブンに対する措置、債務帳消し、貿易ルールの変更など、主要な金融構造改革に新たな原動力を与えています。 これは、貧しい国々が仕事を守り、包括的で普遍的な公共サービスと社会保護システムを構築できるようにするために不可欠です。
とりわけ、大規模な世界的景気刺激策は、化石燃料産業をさらに強化するのではなく、グリーン産業を支援することに向けられるべきです。 10年以上前の前回の金融危機の後、グローバル・グリーン・ニューディールのための同様の提案が提出されました:今、政府が世界経済の脱炭素化と自然生態系の回復に向けて最大のリソースを動員する時間はなくなりつつあります。 十分な規模の「公正な移行」は、低中所得国が生産を多様化し、商品への強い依存度を低下させると同時に、柔軟性を高めるのにも役立ちます。
連帯の精神
国連貿易開発機関であるUNCTADは、G20諸国が連帯の精神で中核経済圏外に住む60億人を支援するために行動する、グローバルサウスのための新しいマーシャルプランへの訴えかけを一新しました。 しかし、最も強力な国家、特に米国が世界政治を、国家同士が協力するのではなく競争するゼロサムゲームと見なし続けるとき、そのような歴史的レベルの調整されたグローバルなリーダーシップ出現の希望はほとんどありません。 世界的なパンデミックは、金融危機後の数年間に政府間の集団行動能力をますます蝕んできた多国間主義の危機のなかで発生したため、ウイルスがすでに世界的対応を上回っていることは驚くに値しません。
現在、相変わらず、地政学的関係を変革する責任は、影響力のある国家元首ではなく、私たち自身にあります。 このロックダウンの期間中、国や地方の連帯の心強い証拠がたくさんあるかもしれませんが、ワクチンが発見されたら、それが国際的に表現されるかどうかという問題が残ります。
裕福な社会のより恵まれた人々は、世界の半分が貧困に喘いだまま放っておかれる悲惨な不平等に肩をすくめながら、私たちのグローバルな相互関係を公言し続けるでしょうか? それとも、国連の基本的目的を直接強化するだろう、すべての人の基本的な社会経済的権利を確保するための耳をつんざくような呼びかけを通して私たちの要求を統一するのでしょうか?
1カ国内だけで国民の救済措置を求めることと、すべての国のすべての恵まれない個人や家族に恩恵をもたらす万人のためのグローバルな救済措置を求めることは別のことです。 コロナウイルスの危機が永続的な人間の重要性を明らかにしているとしたら、確かにそれは最終的に私たちの惑星の驚異的な富と豊かな資源を分かち合うこの必要性に違いありません。
アダム・パーソンズはシェア・ザ・ワールズ・リゾースィズ(STWR)の編集者です。STWRは英国ロンドンに拠点を置く国連経済社会理事会の協議資格を持つ非営利市民社会組織です。
Image credit: Giacomo Carra on Unsplash