極度の不平等を削減するための措置をキャンペーナーは長期間提案してきましたが、社会機構を弱体化する恐れのある経済モデルに政策立案者は固執し続けます。無数のレポート、本および公衆の抗議デモのなかに主張される再分配へのますます拡大しつつある要求にいつ政治的エリートは耳を傾けるのでしょうか。
去年だけで世界で最も裕福な個人100人は、合わせて2410億ドルの追加収入を得ました。最新の計算によると、この莫大額の4分の1を再分配するだけで、政府が丸一年間の極貧を一掃することを可能にするでしょう。残念ながら、貧困関連の原因から毎日不必要に死んでいる4万人の人々にとって、社会全体を通して政府がもっと公平に過剰収入を再分配する政策を策定することがなさそうであるのと同じだけ、これらの億万長者が進んで自分たちの稼ぎを分かち合うことはなさそうです。
社会・経済政策を先導するために分かち合いと正義を要求する人たちによる一連の最新レポート、本および公衆の抗議のなかで、オックスファムは2015年までに極端な富を廃絶するという強固な議論を提唱しました。彼らの記者説明会「不平等の被害:極端な富および収入がどのように私たち皆を傷つけるか」のなかで、一般的になぜ極端な不平等が経済、環境および社会にとって悪いのかということに対する多くの理由を挙げています。
その記者説明会によると、世界人口のトップの1%の収入は過去20年間で60%増大しました。2008年の経済危機後、アメリカとヨーロッパで失業率が急上昇するかたわら億万長者のエリート・グループの収入は拡大し続けました。そして、トップ0・01%にとって収入の増大の度合いはさらに大きく − 現在世界では約1200人の億万長者がいます。当然ながら、高級品市場は「経済危機以来毎年2桁成長を記録しています」
極貧状態で生活する人々の数の著しい減少にもかかわらず、そのレポートはまた、発展途上国での急速な不平等の激化を浮き彫りにしています。例えば、中国では人口のトップ10%が現在国の収入の60%近くを稼ぎ、それは地球の最も不平等な国の一つとしておよそ南アフリカに匹敵します。同じように米国では、1980年以来国家の収入の割合はトップ1%にとって2倍、そしてトップ0・01%にとって4倍となりました。
新自由主義のゆっくりした死
このすべてに浸透した不平等の拡大の根本原因を理解し、社会の深刻な問題をそれが構成要素であるかどうかを決定することは重要です。最近の記事でジョージ・モンビオットが指摘したように、何十年もの間、政策立案者は、彼らが賛同する新自由主義的イデオロギーの必要な副産物として不平等を考慮してきました。この市場崇拝システムの支持者にとって、不平等削減のための政策を策定する試みは自由市場の効率を妨げるため、どのような犠牲を払っても回避されねばなりません。そして代わりに、さらなる経済の自由化、資源、サービスおよび産業の私有化、公共セクターの縮小、ならびに国内および国家間のさらなる競争に市場を開くためさらに多くがなされねばなりません。個人主義および自己利益の原理に基づく理論として新自由主義は、社会と環境にとって最悪の結果をもたらし得る時でさえ、経済活動から公衆の共同監視を取り除くことを求めます。
しかし、1980年代以降のサッチャー、レーガン、コールそしてその他によって最も声高にに追求された新自由主義的実験は完全な失敗として現在広く見なされています - とりわけ、2008年の経済危機の結果をもっては。モンビオットが説明するように、1980年代以前に起こった富裕国の成長は、「恐慌と世界第2次大戦の結果としてエリートの富および権力の破壊によって可能にされました」新自由主義的実験はこれらの動向を覆しました。そして、これらの政策に対する強力な証拠にもかかわらず、経済危機の5年後、経済政策の推進力はおよそ完全に新自由主義的なままです。
行き過ぎた富のレベルが極度の貧困および剥奪と並んで存在することに対する太古からの道徳的議論が当然存在します。これは、富裕国および貧困国双方の大多数の人々に当てはまる基本的な倫理観であり、そして何千年もの間、霊的・宗教的哲学の根本理念となってきました。しかし、今日の経済的決定過程の悲しくも非道徳的枠組み内でさえ、新自由主義的政策が成長の利益を公平に分かち合うことができず、社会機構自体を弱体化する脅威を突きつける不平等レベルを現在もたらしていることは広く受け入れられています。
不平等の影響
近年、オックスファムは不平等の人間、経済、環境への影響について報告している数多くのオーガニゼーションの一つに過ぎません。そしてこの問題は、不平等に正面から取り組むことのできる2015年後の発展目標に関する討論の中心となってきました。短期的経済成長の追求が公共政策の聖杯となり続ける誤り導かれた世界のなかで、国際通貨基金でさえも、不平等が効率を阻害する可能性があることを認め始めています。「公平な分担」というタイトルの最新報告書のなかで、富裕国および途上国双方が革新的な租税と再分配 - 基本的に分かち合いの原理を表現した政策 - をもっと強調すべきことを示唆しました。
オックスファムの記者説明会で浮き彫りにされたのはまた、特に、お金と権力が買うことのできる政治的プロセスへの膨大な影響を通して極度の富が民主主義を破壊できる方法です。不平等を拡大し2008年の世界経済崩壊を最終的にもたらしたあの同じ新自由主義政策 - 市場贔屓の計略を追求するために政治家へのロビー活動をする金融産業と大企業によって、何千億ドルもが毎年費やされています。代表民主主義を蘇生させることは、政治的結果に偏った影響を与えるどのような少数派グループの能力をも抑制することが必然的に必要でしょう。それは同様に、この歪みを促進する可能がある極度の富を制限する必要があるかもしれません。
地球の限界ある資源の公平な取り分を遥かに上回る量を富裕国が消費しているため、不平等を過度に強調する政策はまた環境劣化の主な促進者です。またオックスファムがプラネタリー・バウンダリー に関するディスカッションペーパーのなかで以前照らしだしたように、私たちが利用可能な資源をもっと公平に持続して分かち合わない限りそれは不可能でしょう。発展および環境政策の目標は、環境の限界を超えることなくすべての国の人々が基本的ニーズを確保できることを保証することでなければなりません。収束と公平性への急務を指すと同時に、その様な声明は、不平等を拡大する政策にとって膨大な意味合いをもちます。
2011年の歴史的出来事が証明したように、不平等は市民の暴力的動乱を引き起こすこともあります。何十年もの不平等と不正義の経験は最終的にアラブの春だけでなく、その同じ年に世界的なオキュパイ運動、スペイン、ギリシャ、イスラエルおよび他の国々で他の多くの自発的な公衆の抗議デモを引き起こしました。これらの公衆動員に携わった多くの人々は、キャンペーナーとアナリストが長い間警告してきた不平等の社会的結果を直に経験しました。有名な著書 The Spirit Level(日本語タイトル「平等社会 経済成長に代わる、次の目標」リチャード、ウィルキンソン【著】、ケイト・ピケット【著】、酒井泰介【訳】2010年4月、東洋経済新報社)のなかで明瞭に詳説されるように、犯罪や肥満から精神的健康に至るまで、不平等が社会的福利のおよそすべての指標に良くない影響を与えるということは現在広く受け入れられています。
明らかな対策としての分かち合い
2015年後の発展目標に関する話し合いにおいてであろうと、環境的に持続可能な経済構築の方法に関する提案においてであろうと、何十年もの新自由主義政策を撤廃し代わりに分かち合いと再分配の形態を強化する必要性を無視することは政策立案者にとってますます難しくなりつつあります。分かち合いの原理によって導かれた政策は、分かち合いのプロセス自体が個人主義的であるよりむしろ協力的であるため新自由主義的アジェンダにとって不利です。革新的租税システムならびに社会福祉や公共サービス提供など分かち合いシステムは連帯を築き、地域社会と国家を結びつけ、格差縮小を促進する力をもちます。
不平等の被害に関するオックスファムの報告書は、どのように分かち合いおよび再分配の形態が不平等削減において重要な役割を担えるかを指摘する、増大する研究の重要性をさらに強化しています。最も裕福な100人の億万長者の年間収入を合わせた額を再分配することは、彼らが自発的に富を分かち合うことがない限り、世界的貧困の実行可能な一時的解決ではないかもしれません。しかしオックスファムが認めるように、不平等削減のための政策解決策は豊富で広範に知られています。一つの実例を挙げると、STWRの最新報告書「グローバルな分かち合いの経済に融資する」は、租税および債務正義から政府の非常識な補助金の向け直しに至るまで、様々な措置を通して極端な不平等を削減するために何兆ドルをも再分配することが可能でしょう。
採用される特定の政策に関係なく、富と資源をもっと平等に分かち合うことは、人間の性質に関する時代遅れの仮説に基づいた持続不可能な開発モデルへの固執を政府が超えることを要求するでしょう。そして、新自由主義者がどれだけ嫌がろうと、それは必然的に政府の介入:社会の公平性と公正性を国内および世界規模で保証する新政策、規則、法律を必要とするでしょう。
一般の人々は先頭に立つか?
政府が古い経済秩序を蘇生させようと忙しい間、間違いなく多くの疑問で世界中のキャンペーナーと革新主義者の頭は一杯でしょう。分かち合いと再分配への増大する必要性を考慮すると、不公平を促進する政策への固執から政治家と戦うために公衆がすべきことはなんでしょうか?世界中の何百万人という人々が要求している良識のある代替策を政策立案者はあとどれだけの間無視し続けるのでしょうか?民主主義を強化し企業でなく一般の人々に仕えるために在任しているのだということを政治家に思いださせるためにはどうしたらよいのでしょうか?
唯一の答えは恐らく、国境を越えて拡大する不平等に反して共通目標において従事する市民の大衆動員でしょう。あるいは恐らく、さらなる経済危機、環境的混乱そして経済的苦難以外に、歪曲した優先事項の再考を最終的に政策立案者に強いるものはないのでしょうか。斬新な変革が最終的にどのように起こるかに関係なく、分かち合いと再分配へのより大きな重点は、不平等削減と地球の限界内での人間のニーズ確保のためのすべてのプログラムの中心であることが必要でしょう。さもなければ間もなく、世界の最も裕福な一個人の収入が世界の貧困を根絶できるようになるかもしれません。
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